2月4日(月)の日本経済新聞の「法務」欄に、出版社(書籍)が著作隣接権の創設を求めているとの記事が載っています。
記者は、瀬川奈都子さん。
僭越ながら、首を傾げたくなる記事が多い日経新聞の法務関連の記事のなかで、唯一といっていいほど、法的な素養が高く信頼できる記事を書かれる方です。
(日本)経済新聞なので、経済には強くても、法務に弱いということなのか、それとも、私が経済に弱いから経済面の記事の信頼性を推し量れないのか・・・。購読している者としては、願わくば前者であって欲しい(苦笑)

さて、今回は、そんなかなり信頼のできる瀬川さんの以下の記事。


著作隣接権、求める出版界電子書籍普及で「海賊版対策に有効」 漫画家・印刷業界は異論

もう既に各所で取り上げられ、論評されておりますので、今更かも知れませんが、今回の記事のタイトルにもなっている『電子書籍普及で「海賊版対策に有効」』を見て思ったことを一言。。。


「本気でしょうか?!」(笑)

こちらの記事なんか見ても、「海賊版対策」をまっさきにあげているので、本気でそう思っているかと、おもわず信じてしまいそうです。

もし本気だとしたら、「どんだけ隣の芝が青く見えるのか!?」と思ってしまいます。
正直、デジタルデータが一度インターネット上にアップロードされれば、著作隣接権なんてあっても無意味と言っていいと思います。
もし、上記に電子書籍の売上げや利益を守るという観点を加えてよいのであれば、著作隣接権なんてあっても無意味と言い切れます(断言!(笑))。

これまでに何年もインターネット上の海賊版対策をしてきた経験から言えば、費用対効果はとても悪いです。
さらに、今回の出版社の著作隣接権についていうと、条約上の権利でもない日本独自の権利では、外国のサーバーから落とせません。
Bittorent等のP2Pとか、どうするつもりなのかなと???
徒労に終わります。間違いなく。。。
いったい出版社のどのレベルの人(経営層 or マネジメントクラス or 担当者?)が言い出した話なのか分かりませんが、権利ができれば、当然行使したくなるわけで(というか、行使するために権利を作ったのでしょうから)、費用をかけて行使するわけですよね?
いったい何年赤字を続ければ権利行使をやめることができるのか、それとも担当者達の権利行使の仕方が悪いといって赤字を垂れ流すのか・・・。いずれにしても、日本の出版業界にとってメリットがあるとは思えません。

日本の企業の多くは、自社が自社のビジネスについてきちんとした戦略を描かずに、権利がないとか、法制度が悪いとか、外的要因に原因を求めすぎる気がします。

ところで話は変わり(戻り)ますが、前述のとおりきちんと取材と調査をして信頼できる記事を書かれている瀬川さん、今回も、これまでの出版業界における版面権の議論を踏まえた上での出版社の著作隣接権という流れを踏まえて、今回の中川勉強会が想定する隣接権の保護対象を「紙の版面のほか電子書籍用に作られたデータファイルも含む。画面や文字の大きさでレイアウトが変わっても、基本的に元のデータは保護の対象となる。読者の目に映るレイアウトだけを保護するわけではない点が特徴だ。」と述べている点は、やはり優れた方だと思います。
(中川勉強会の『「出版物に係る権利 (仮称 )」に関する検討の 現状 について』は、こちら。PDFの2頁の『出版物等原版』および6頁の『論点9』参照。)
ただ、一方で今回は俄かには信じがたい記事がありました(笑)
それは、「既存の隣接権者と同等の貢献をしている以上、同じように保護されるべきだ」(著作権法に詳しい上野達弘・立教大教授)との部分です。
瀬川さんがきちんと取材をして、上野先生からこのようなお話を聞きだしているのかもしれませんが、単に、『理論的には、「既存の隣接権者と同等の貢献をしている以上、同じように保護されるべきだ」とおっしやりたいのかなと。さらに穿った見方をするならば、「既存の隣接権者と同等の貢献をしている出版社に著作隣接権を認めないということになるなら、いっそ既存の隣接権者の権利もなくしてしまわないと・・・。」という発言だったのではないか(笑)と思ってしまいます。
さすがに、条約上の権利もあるし、ここまでは言わないか…。

上野先生に真意をお聞きしたいところです。